遺言書があれば被相続人の意思により遺産が分割されます。ですが、我が国では遺言書は充分に浸透しているとは言えません。圧倒的多数が法律上の分配ルール=
法定相続によって行われます。
全相続人が遺産分割協議に合意が出来たら遺産分割協議書を作成します。
全員の合意があれば遺言書と異なる分割や法定相続分と異なる分割も可能です。相続人の中に未成年者、行方不明者、後見制度を利用している被後見人等がいる場合は特別代理人、相続財産管理人、成年後見人を選任し法定代理人として協議に加わります。
この協議書には
誰が・何を・どれだけ取得するのかを明記します。これを相続人の数だけ作成し、それぞれが署名し実印を押して各自が保管します。
預貯金の解約や不動産の名義人変更にはこの遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書・被相続人の出生から死亡時までの戸籍資料が必要になります。
寄与分って何?
寄与分とは被相続人の財産の管理、維持、増加の為に特段の貢献をした人に対して、他の相続人より多く遺産分割を優遇するということです。
例えば亡くなった父親が事業を行っていて、長男が長年無償で事業の手助けを行っていた事実があり、長男への優遇を相続人全員が認めれば成立するものです。
この寄与分は相続人にだけ認められます。
特別受益って何?
被相続人の生存中に被相続人から生前贈与等で財産を分けてもらった相続人を
特別受益者と云います。例えば息子や娘への婚姻や住宅購入の頭金、大学の入学時の費用等を贈与等がこれです。
これらの財産贈与は遺産財産について相続分の前渡しとして特別受益とされ、相続分から
持ち戻しのマイナス計算とされます。
親の介護は寄与分が認められる?
親の介護を献身的にした人とそうでない人。遺産分割のトラブル原因としてよく耳にします。
「親の介護を何もしなかったのに、永年介護をした私と平等に遺産を受けるのか!」こんなお気持ちも分からなくはありません。ですが法律では親の介護での寄与分は難しいです。親の介護は子の扶養義務の範囲内とされ寄与分は認められない事が多いのです。
ただ、2019年7月から、相続人以外の被相続人の親族(例えば亡くなった義父の介護に努めた息子の嫁)が無償で療養介護を行った場合、相続人に対して金銭支払いを請求出来るようになりました。
配偶者居住権で妻も安心
2020年4月から配偶者居住権が新設されました。
配偶者居住権は,夫婦の一方が亡くなった場合に,残された配偶者の居住権を保護するため,令和2年 4月1日以降に発生した相続から新たに認められた権利です。 建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても住み慣れた建物に引き続き住み続ける事が出来るのです。
例えば、亡き夫が総額4000万円の遺産を残して他界したとします。その内訳は自宅不動産2000万円と預貯金2000万円。これを相続人である娘と二人で相続する場合、妻と娘の相続額はそれぞれ2000万円です。
この自宅不動産を1000万円の居住権と1000万円の所有権に分離して、妻が1000万円の居住権と預貯金1000万円を相続します。他方娘は自宅不動産の所有権1000万円と預貯金を相続します。自宅不動産の固定資産税は配偶者が負担し大規模な修繕費は所有者が負担します。この配偶者居住権は相続人全員の合意や遺言書で設定することが出来ます。そして登記することで第三者に対抗することが出来るのです。
この権利で妻は当面の生活費の心配をすることなくこれまで同様自宅に住み続けることが出来ます。
またこれとは別に、相続で自宅の所有権は娘が相続しても相続が発生した日から6か月間、又は遺産分割協議で自宅の処分が決まった日のいずれか遅い日まで配偶者短期居住権として、妻はこれまでの自宅に住み続ける事が出来るようになりました。
配偶者への生前贈与に優遇措置
婚姻期間が20年以上の夫婦間では、配偶者に自宅を生前贈与又は遺言書により遺贈した場合、被相続人の持ち直し免除の意思表示があったものとして遺産分割から除外出来るようになりました。これにより配偶者は自宅に併せ遺産分割での相続取り分を増やすことが出来るのです。